喉が渇いた。寒い。お腹も減ったしお風呂にも入りたい。もうお願いだから殺してくれ。渇望する願いを彼は一つも聞き入れてはくれない
魂が乾涸らびる頃
あれから随分と長いこと、私は太陽を、朝陽を見たことがなかった。肌に突き刺さるような、鋭い剣のような空気の中でザンザスから与えられたコートを素肌の上から被る。だがそんな物ではこの寒さが凌げる筈もなく。やはりがちがちと歯をならすしかなかった
こんな事ならばひと思いに殺してくれた方が良かった。ヴァリアーのメンバーは暗殺などの任務に失敗された時に処刑される。私の場合も例外でない筈だった。だが、次期ボンゴレ十代目になるザンザスのお情けで私はこうして生きている。だがその状況下は最悪だ
誰もいない地下室で、生まれたままの姿でこうして震えていた。そうしたら私にいらぬ温情をかけて下さったザンザスが現れたのだ。もう随分と前の事のように感じる(実際は二日前のことなのだろうが)
「酷い格好だな」
それだけ言って羽織っていたヴァリアーの制服である上着を私に放り投げた。格子の奥で震えていた私はそれを震える手で掴んで声を出そうとしたが生憎、随分と飲まず食わずの生活をしていたせいか声とも呼べない音だけが口から生じた
その様子を見てザンザスは鼻でフン、と笑ってから重い扉をくぐって温かい明かりの下に行ってしまった。閉ざされた地下室では物音一つしない世界に戻った。頼む、誰でもいいから殺してくれ。部屋の隅に移動して身体を縮めて上にコートを被る。人間は三日間、水分をとらないと死ぬらしい。それならば私は明日にでも死ぬな、遠のいていく意識の中でぼんやりと考えた
「おい、いい加減にしてやらねえとのヤツ死ぬぞ」
扉から出てきたザンザスに戸惑いがちに話しかけてきたのは現ヴァリアーメンバーの一人であるスクアーロだった。ザンザスは視線を一瞬、スクアーロに向けたがくるっと背を向けてしまう
「今、見てみたがまだ息がある。死んじゃいねえ」
「だが明日になったら死んでるかもしれねえだろぉ?何も与えてねえ上にあの寒さだ。ひと思いに処刑してやった方がいいんじゃねえのかぁ」
「うるせぇよ」
それだけ言って長い廊下をザンザスは歩いて行ってしまった。スクアーロは地下室への扉に視線を投げかけたが開けることなくその場を去っていった。格子の奥では震えながら上着をきつく握り締めるの姿があるばかりである