「こんばんは、XANXUS」
双眸は深淵の闇を思わせた。そこに広がっているのはファミリーのボスに相応しいと思わせる血生臭い暗闇。部下の殺しを全て背中に背負っている者として相応な顔立ち。これが初めてと出会った時に感じた感想だった。後ろでスクアーロが上機嫌な声で説明をしてくる。紹介されているの顔には閑寂な微笑が称えられている
「は俺の旧友でなぁ、ボスに就任したばかりだってことで色々な危険も考えて護衛を頼んだんだぜぇ」
「なぁ?」と同意を求めるスクアーロに女としては低めの声で「えぇ」と肯定を示した。それにまた気分をよくして何事かを依頼主であるに話している。新米ボスといえど同盟ファミリーの、しかも結構でかい所なのでヴァリアーのボスである俺が直々に護衛をしろと九代目に言われたので今回、カスと俺で出ることになった。面倒くさい任務だ(殺しの方が標的が定まっているから断然、やりやすい)
「んで、なんでお前はこんなに狙われるんだよ」
目の前に出来た人間の山を見て溜息が一つ、出た。それが寒空の下で白い靄となり隣で静かに笑うに絡むようにして消える。問いを投げかけても本人は表情を変えず呑気に笑いながら買ったばかりのホットココアを口にした
「寒い日にはココアは身に染みますね、一口どうですか」
「・・・いらねぇよ」
差し出されたココアが生み出す蒸気は緩やかにくねり、のろのろと上空に上がっていく。短く「そうですか」と言ってまた一口、飲んでから出来上がった山には見向きもせずにヒール特有の音を響かせ路地を歩く
ボディーガードという暗殺部隊には随分と似つかわしくない依頼を受けたあの夜からが狙われる回数は尋常ではなかった。部屋で食事をしている際にいきなり窓から来訪者が現れたり本部に向かう途中と睡眠時に発砲される。午前と午後にスクアーロと入れ替わりで護衛をしているが、俺がついているときだって十数名が必ず一日二、三回は来訪する
ボスの座に着いてからここまで暗殺を繰り返されるのは前ボスをなんらかの形で殺したのだろうか・・・そこまで考えて自分も歩を進めた。依頼主がどういう人間であるかなど俺には関係のないことだ。それにしても今日はやけに冷える、外気に晒されていた両手の指先がほんのりと熱かった
「ごめんねスクアーロ、大変な仕事を押し付けてしまったわ」
依頼の最終日前日、俺と交代する直前のスクアーロに謝罪した。深淵に染まりきった闇が一瞬だけ揺らぎ、それを感じ取ったのかスクアーロはあの煩く笑うときの顔でぐしゃぐしゃと頭を撫でた(ただ撫で終わった後も声一つ出さなかった)一方、は黒い髪が乱れていくのに初めて、顔を綻ばせ笑った。幼さが多少、見える表情にいつも纏っていた空気が温和なものになっていく
その後は普段通りの表情で本部に向かい、自室に閉じこもると書面に視線を流し必要箇所にペンを走らせる。ドアの傍に座り黙ってその様子を見ながら今日の夜は昨日よりも冷え込むというニュースからの情報を思い出して聞こえないように息を吐き出し瞼を閉じた
「少しだけ、話してもいいですか」
ペンが紙を滑る音がしなくなる。閉じた瞼を上げるとが真っ直ぐにこちらを見ていたがそれでも黙っているとそれを肯定としたか、勝手に喋り始めた。印象からあまり話さない女だと思っていたが違ったか、壁に頭を預けて聞いていて感じたのは少し低めの声は思いのほか耳に心地いい
「スクアーロにも言いましたが、こんな大変な仕事をお願いしてしまってすみません。こんなに狙われるなんて・・・甘く見ていました」
「仕事は仕事だ。あんたが謝ることじゃない」
瞼を閉じてそれだけ言った。感覚的に空間内の人間が笑ったのを察する
「私がこのファミリーのボスになったのをよく思わない人はたくさんいると思います。前のボスは、威厳があり聡明な人でした。それを私なんかが継いでしまったのですから・・・よく思わない人もいると思います。色目でも使ったんだろうって思ってる人なんて・・・たくさんいると思います。それはいいんです、そう思われるのを覚悟でボスの座に着きました。でも、それでもやっぱりこれだけの人が来るなんて、思っても、みなくて・・・その」
「いいじゃねぇか」
それだけを、言った。こんな時に掛ける決まりきった言葉を俺は好きになれないし今のコイツならそんなことを言われても嬉しくもなんともないだろう。だからこそ、肯定する言葉を掛けるだけでいい、それだけでコイツには伝わるだろう。瞼を上げれば静かに微笑む女がそこにいた。その微笑が綺麗だと柄にもなく思った
「今日で任務、終了ですね。ご苦労様でした」
ペコッと頭を下げるの頭を掴んで上げる。顔を見たら驚いて目を大きくし、普段はきっとこういう顔をしているのだろうと思わせる表情をした。いつもの余裕を持っているように見せている表情よりもこちらの方が好きだ
「ファミリーのボスがそう簡単に頭なんて下げるな」
「・・・いまだけですから、頭なんてこうやって誰かに下げれるの」
言ってまた笑う。掴んでいた手を離すとゆっくりと頭を下げて礼を一つ、言った。スクアーロにもやはり同じことをしたのだろうかと小さな疑問が芽生えたがどうでもいいことだ。先程、買ったホットココアが小さく震えているのも今だけだろうと思えば苦笑が零れる
「ところで、ザンザスは今日誕生日なんですよね。おめでとうございます」
静かに微笑まれてから言われた言葉にそういえば今日が自分の誕生日だったかと思い出す。の静かに笑うこの表情が好きだ、なんて胸中で密やかに思った
「これから家に来ませんか?あの・・・忙しくなかったらでいいので」
「それも今だけしか出来ないからか」
ふっと笑えばもう一度、静かに微笑む。着ている黒のコートが風に靡いているのを見て少し、寒いと感じた。昨日よりも冷えないと言っていたキャスターの言葉を思い出してどうだか、と思った
「飲みますか?」
渡されたのはゆらりと揺らめく温かな蒸気を生み出すココアだった。相手を見れば少し悪戯っぽい笑みを浮かべている
「一口だけな・・・」
受け取ったときに下の方へ視線を向ければコンクリートにあったのは二人分の
シルエットは浪漫色
銃様に提出させていただきました!ビターな恋の始まりのようなものを目指してみました!大好きなボスの企画に参加出来て幸せです!
071124銀狐