泡のように生じてすぐに消えるわたしの叫び声は窒息死の要因なんじゃないかな、ちがう?
お互いを失いたくないから
子供みたいに手を絡ませて口付けするような関係を私は望んだけれども。あなたは大人ぶって隣を歩く私になに一つとして授けてはくれない。いいや、隣を許された身なんだからそれだけで感謝の念を!
「?」
突然、私はその声に肩をまあ、ザンザスの恋人なのに情けないっ!ちょっと目を大きくしてビグリと跳ねれば気のせいでもいい、確かにザンザスはこちらを一瞥してくれた。燃えるような瞳も、私より頭二つ大きくて、もどかしく悩ませる彼を手放したくないから不安要素が満ちている背後を振り返ることなんかするわけがないだろう。そのまま私の名前になんて見向きもしないで歩いたら走ってくる音が聞こえて、残念にも私が走ることはザンザスを不審に思わせ、ボスである彼の隣を、忌まわしき音の相手がアイツなら、次の日に静かに横で微笑むのは私じゃない。そんなの全部いやだ。だからただ何事もないように歩けばザンザスの双眸に宿る炎は微かに、世界に生きる私のように小さなモノだったが、揺れたのだ、確実にそれはゆらぁり、と
「!」
暗殺部隊の革張りの制服ではない、薄い純白を気取ったシャツを力強く掴まれてしまえばこの咽はひゃっと高いソプラノを搾り出した。後ろを向きたくなんかない、だけれど冷たく私を楽に殺さないでただ見つめるだけの赤い瞳に居場所がなくなり仕方なし、目を細めてあの時の私になるしかない
「やっぱりだぁ」
「…誰かしら」
暗殺部隊に入る前から私は単独で、所謂フリーの殺し屋なんて血生臭くてお金に貪欲な、女で。でも酔った日に男がいつだったか、ただこころも冷え切ってしまうような真冬の夜にナンパされて。ついて行ったのが馬鹿だった。数日間、甘ったるい言葉で脳髄を麻痺させておいて、私は敵に唐突、柔らかいベッドなんかじゃなくてビル郡の狭間でこの身を侵食されてしまい、吐き気と震えが止まらないまま声も出さずに泣きじゃくりながら頭も働かない状態、乱れた服で、スカートが隠さない太腿から気持ち悪く考えるのも嫌になる白濁と血液を滴らせ自宅に帰り、狂ったように身体に入った毒を取り出して清めた
ザンザスと一緒にいたから、今まで離さないでくれたから私は少しだけでもキレイを纏えたのに
「相変わらずだよな、そういうところ」
あんなことをされたのだから当然、会わなくなって自然消滅したかしらなんて認識していた私が甘かった。まともな神経ならもう話し掛けられないなんて、あんな盛りのついた頭悪い男なのだからまともなわけがなかった、ちくしょう
「…行くぞ」
細められ冷めた瞳は言葉なんかなくても全部を物語っていた。夢を見た、見ていた。少しでも、私を想って、なんでもいい!関係ない、興味ない、そんな視線よりずっといい
「ま、待って!私も行きます!」
「ちょっ、待てよ。っ!」
ザンザスの大きな手をぎゅっと握ったと同時、名前なんか覚えていたくもない男は私の手を握ってきて、いやっ、助けて…小さく言って俯いたらちょっと目頭が熱くなって無力、ただ信じて欲しいのは昔、男に対しての震えと無差別な恐怖心に見舞われてた私を救い、あなたで満たしたのはザンザスなのよ
「つぅっ…!」
もう怖くなってただの女になったように瞼をぎゅっと閉じてしまったので、掴まれた手が瞬時、離れたのを理解できなかった
「てぇな!誰だよテメーッ!」
「コイツの男」
優しい温度を感じて不覚にも流れた涙を拭えなくて、いつの間にか震えていた身体、肩に触れられた部分が大丈夫だ、言葉なんかいらないメッセージ
「は、意味わかんねー!」
男の穢れた声がこの街の空気を濁らせているような気がして早くコイツから離れたいという想いが湧いてきて。咄嗟にいつもなら絶対にしないけど何も考えられなくてザンザスの胸に抱き着いた
「…このカスが」
すごい音(骨が折れるようでいて、鈍器で勢いよく殴ったような)がして、そっちをチラリと恐怖と興味の嵐に見舞われながら見てみれば煉瓦畳みの街道遠くにいる四肢を投げだしている誰か
上を向いてザンザスになにか言おうと口を開こうとしたら目尻に想像もしていなかった柔らかな感触。それがザンザスのモノだと気付くのに数秒を要した
突然のことに思考回路が追いつかないまま、肩を抱かれて愛する人の胸に寄り添うような形になり顔が熱くなるのをただ感じるばかり
「俺がを護るから臆するな。全部、自分でどうにかしようとしないで、俺を頼って、いいんだ」
嗚呼、私はこの人にこころを奪われ、身を捧げてしまってもいいと思うと同時、惚れたのがあなたで本当によかったと思うばかりです