疲れた。もう怖くて不安で辛くて身体より心が参ってしまった。歩く人々に此処は何処でしょう、江戸の町はどちらですかと聞くと奇異な目を向けられ素通り。時々、熱心に話してくれる人もいたが何を言っているかわからない。どうやら言葉さえ違うようである。もう嫌だ、旦那様のもとに帰り優しく頭を撫でてもらえたらどんなに幸せか。歩く人々と着ている物や言葉、なにからなにまで違う私は予測もしなかった孤独感に襲われた
前を向いても希望が見えない。そう思っていたら見覚えのある太陽の髪。私の髪より柔らかくも美しい髪に、あの端正なお顔は…!

私は駆け出した。ありったけのスピードで。固い地面を足が蹴り上げる。途中、何度か突っ込んでくるおかしな形をした猛獣にぶつかりそうになったが自慢の足と身体能力でカバーする(私も忍びの端くれだ)
だが考えもしなかった背中から激痛が私を襲う。見覚えのある痛み、これは刀に斬られた時に少し、似ている。だがあの鋭利かつ繊細な痛みではなく粗暴にて荒っぽいモノだった。ああ、御主人様が離れていく。人込みに紛れ飲まれ行ってしまう。私に一瞥もせずに…待って、まって…

私の意識は顔面を地に擦り付けたところで終わった



聞き慣れない言葉の海。わからない意味の言葉達に含まれた怒りを感じ取り、何度も閉じかけそうになる瞼を無理矢理にこじ開けた
きっと、瞼を上げれば優しく微笑み「今日は長い昼寝だったな」と笑う御主人様がいらっしゃるに違いないのだ




見つけたあなたに駆け寄って牙を剥かれる