辺りから煙がのんのんのんと出てくる。わたしはそれを片方がじん、と熱を出しているのを感じながら、なにも映さない、目を閉じればそこにあった赤と緑のノイズも見えないくらいの真の闇(いいや、開閉も定かでないほど)立ち上る灰色と黒の卑しくも交じり合う煙の様を霞む左目で見ている。いまもわたしなんぞをきゅうと抱きしめてくれる黒い手に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。なんと役立たずであろうか、わたしは

今回の、マフィア殲滅は大きな仕事でヴァリアーのボスであるザンザスも出陣という、ものなのに。わたしは名も知れない男からの銃弾に腹を貫通してしまう。だけれど、そのくらいで倒れていたら明日の非番にデートをする約束を、スクアーロとしているのだ。あの、スクアーロと。そう思えば自分の中にいるどろり、とした獣は一つ咆哮した。生命の雄叫びである。わたしが死ぬくらいなら貴様が死ねばいいんだ。手に持った剣で、復讐すべき男の首をすぱんと刎ねる。勿論、人間の首には骨が通っているので殊更に強く刎ねなければならない。でないと中途半端にくっついている事になるので相手が苦しむ。びしゃっと返り血を顔面に浴びて、気持ち悪いと純粋に思う。先程まで血管を通っていたそれはやけに生温かいのだ。べっとりとした感触でわたしを包み込むそれを知らぬ存ぜぬで通し、背後にいる男の腹に剣を突き立てる。横から来た者には口に剣の柄を咥えて腰にある二丁銃を使ってさようならのご挨拶。以前、ザンザスと任務を行うときにこの銃を使ったら「俺とかぶる」と言われたのを不意に思い出した(その言葉に笑ったら意外にも男も笑った)そのまま目の前に立っている人間のこめかみを狙って銃弾節約のため一発ずつ。近くまで運よく来る者がいれば口に咥えた刃で喉笛をさらりと切る。顔面にまたも生温かいそれがかからないように注意しながら戦っていた
ふう、息を一つ吐き出せば辺りは死屍累々。白濁とした瞳でこちらを見てくる死体の顔を見て気分が悪くなりそれの顔を踏みつけた(罰当たり)駆けてくるスクアーロを発見して顔を綻ばせる。顔にはどす黒い血をつけていたからビキっと割れる音がしたけど気にしない。わたしも駆けていこうとしたら死体の地面から手が二本、動いた。一つには拳銃、一つには剣が。あぶない
気付けばわたしの右目は機能を果たさなくなっていた。腹を見れば内臓がてらてらと鈍く輝いている。あ、これわたしのだ。どくどくと小さく鼓動をするそれを見て、そこから出てくる血を見て、わたしの名を呼ぶスクアーロに笑って、やばい、倒れるその他大勢の一つになるかもしれないと思った。横になったわたしを筋肉のついた男の腕で抱きしめてもらっていて、これが現在至るまでの経緯だ

「おい、、しっかりしろ!すぐに救護班が来るから!」
飛び出した内臓をぎゅうぎゅうと詰めるスクアーロにちょっと、なに適当に詰めてんだよ、人の内臓なんだからもっと丁寧に扱えよ、と言いたくて口を開いたがひゅっと音が出てくるだけで声にならない。煩わしい
「おい、どけカス」
聞き覚えのある、冷淡な声にそちらを向こうとしたけど出来なかった。ちくしょう、身体が上手く動かない。一つ舌打ちをするとわたしのイラつきが伝わったのか近寄ってきてくれた。お陰で顔を見ることが出来た。やっぱりザンザスだ
はもう助からねえ。いっそここで楽にしちまった方がコイツのためだ」
かちゃっとカートリッジを替える聞きなれた音がした。わたしのと似ているよねその銃って、言って珍しく柔らかく笑って「おめえの安物とは違う」って言ったザンザスの銃だ。ころされるのか、思っても何故か焦りはなかった。寧ろそれを通り過ぎた先にある安堵が顔を覗かせている。死ぬ間際の心境とはこのようなものなのか
「ふざけんな!はまだ息をして、ここに生きてるんだよお!すぐに救護班が来んだから助かる・・・!」
きゅっと、わたしを抱きしめるスクアーロの手があったかい。あんた、こんなに手があったかいんだね。義手の硬い感触もいまではなんでかな、心地いい。これがスクアーロの手だ
「ふざけてんのはてめえだドカスが。見てみろよの顔を」
わたしの顔を覗きこむスクアーロと目が合った。髪が濡れている、赤と透明によって。そうか、雨が降っているのか。下半身の感覚がないので分からなかった。笑おうとしたけど、うまくできなくて。それを見たスクアーロが、熱い液体をわたしの顔に一粒、零す。これも、あめかなあ
「どけ、じゃねえとてめえも殺すぞ」
「どかねえ。絶対にどかねえ!は死んでない、まだ生きてんだよお!」
わたしのためにスクアーロ死んじゃうのか。それは困るよザンザス。わたしは助かるかどうかもわからないけどスクアーロはどこも怪我してないから撃つのはこまっちゃうよ。二人ともわたしなんか置いて行ってしまってよ。ホント言えばそんなことしてほしくないけれど、淋しいから事切れるまでいてほしいけれど、わたしが原因で二人が言い争うの、聞いていたくないんだよ。まだ変に意識があるって厭になるね。なんにも分からないくらいに眠っちゃえばいいのに
思っていたら涙が出てきた。お願いだからザンザス、銃を下ろして頂戴よ。スクアーロも剣を仕舞って。ねえ、お願いだからやめてってば。ほろほろと流れる涙は雨によって判別しにくくなっているのだろうか。自己主張のために動けと何度も命じてやっとのことでガクガクに震えながらもくん、と濡れているスクアーロの髪を引っ張ることに成功すればようやっとこちらを向いてくれた。ぎちぎちと音をたてながら首をゆっくりと横に振り、うまく笑えているかわからないけれども自分なりに頑張って口を歪めれば言いようのないくらいに、辛そうな顔をされてしまってどうしようもなくなって不覚にもまた、涙が流れた



雨に泣く



JUSTIFY様に提出させていただきました!企画に参加できてよかったです!
070223銀狐