この女の視力では分からないくらい小型の監視カメラは爪が剥がれるまで、壁を引っ掻き回して喉が千切れんばかりに叫んでいるそいつを黙々と映している。カメラ越しに見ていたって暗殺部隊の俺にさえ白い壁に描かれていく真っ赤な縦線は痛々しい。それほどまでにしている行為は自身のためではなく他者のためだと知ったときに、俺はもし他者が自分だったらと考察したがそこで重要な事実に気が付いてこころは沈んで、着地点がないほどに深みに堕ちていくのに気付いた(そうだ他者は俺じゃない)
「ザンザスは・・・?」
両の手からは重力に従い血が落下していく。白い廊下にはぽつぽつとが流した涙のようにどす黒くなった赤が散乱している。こんな様子を見たらあの御曹司はなにを思うか。だがにそんなことが通じるわけがない。目を真っ赤に腫らして服だって、あんなに誇らしげに着こなしていたザンザスからの贈り物である服までボロボロに、解れ破れていた。声もいつもの、耳に聞きなれた青空を自由に飛びまわる鳥の声ではない
「ねえ、スクアーロ。おしえて、どこ」
白い肌には黒に赤が混じったモノがこびりついている。どうしてそんなに辛そうに、そんなになるまで。ザンザスはお前をなにもないただ四角の、物質がない部屋に閉じ込めたんだぞ。なのに、どうして。行かない方がいい。アイツはお前が知る御曹司ではないのだ
「おねがい」
手で俺の服を掴もうと伸ばしてくるがどうやら動かないみたいだ。小刻みに震えているから骨でも折れているのだろうか
「墓地に行ってみろ」
それだけ言うとありがとうと感謝の意を伝えて左足を引きづりながら走っていった。嗚呼、俺はを殺したな。ザンザスはを憎んでいる。どんなにアイツがあの男を愛していようがそれは叶わぬ恋なのに(愛せば愛するだけそれは憎しみに変わる。紙一重の世界なのだ)どうせなら無機質なあの部屋に閉じ込められていた方が幸せだったのではないだろうか。いやただ生かされているだけなのならいっそ。考えても俺の中で答えは出ないし、俺が出す答えでもなさそうだ。ただこの涙を止める術を知らないから最後に教えてほしかった。好きだった誰が好きであろうと関係ない俺はそれでも、お前が好きだった。さようなら、傷だらけのアリス
不思議の国に迷い込んだアリスは喜んで断頭台に走った