静かに雪が降っている。周りには誰もいない。吐く息さえ白くて世界が白という色に制圧されてしまったようだ。家に灯る明かりも時間が時間なので殆どない。上を見上げると白とは言いがたいどこまでも続く灰色が眼に入る
「こんばんは」
聞き覚えのある声に体が強張り、悪寒が一つ。後ろを振り向いてはいけない、アイツは幻影だ
「どこもかしこも雪ばかり。音もしなくてさみしいね」
アイツは任務で、息絶えた。それはザンザスと共に見取った俺が言うのだから明白な事実なのだ。今夜はそう、の命日だから墓参りに来たというのに
「あたしさあ、どうせならもっと温かい場所で任務したかった」
あはは、やけに心臓が冷えあがる笑い声。はそんな笑い方はしない。いつだってバカみたいにケラケラとくだらないことにも笑っていた、ヴァリアーに所属しているのが不思議なくらい呑気で能天気な奴だった(その顔の下にある影を俺は知らない)
「いやいや残念だよ。スクアーロ」
ざくざく・・・雪を踏みしめてこちらにくる足音がした。間隔が狭まってくると背中に這い上がってくる、悪寒。アイツは、俺とザンザスで見取ったんだ。だから後ろのコイツがなわけがない。そんなのはありえない
「あたしね、あなたの事が好きだったんだよ」
もっと一緒にいて、この気持ちが伝わらなくてもいいから傍にいたかったの
俺は後ろを振り返った。本能的とも言える。後ろを向いてやらなかったらが泣いてしまうと思ったから(それが本物でなくとも同じ顔で泣かれるのは嫌だった)
ひやりとした感覚。目の前の白は完全なものになり俺はそのの声をしたではない、なにかに手を掴まれていた
「ねえ、さみしいの。一緒にいて」
「お前はじゃねえよ」
アイツの皮を被ったなにかに俺は小さな勇気を掲げて言葉を音にした。静寂に包まれた白の中で色を生み出そうともがく
「アイツは寂しくてもそんなの口にしねえんだ。口にしないかわりにいつも俺の髪をひっぱって自己主張するような奴なんだよ」
「なにを言ってるのスクアーロ?あたしはよ」
「ちげえよ。なによりも違うのはは俺にそんなこと言わねぇ」
白だ。なにもかも飲み込むような白だ。空から降ってくる冷たい雪を、義手になったそれで掴んでもなんの感覚も伝わらないし残らない。の声をしたなにかが気味が悪くなかったと言えば嘘になる。だがそれ以上にもっと大きな、そんな出来事が白く、色褪せてしまうような出来事が起こったのだ
否定の言葉を投げかけるとそれは冷たい、雪のような手を俺の首に持っていき締めようとしたので剣を出して戦おうと(仮にも俺は暗殺部隊に所属している)したら、あの、弱々しい力で髪をくん、とひっぱられた。後ろを振り向く。なんの躊躇いもなく
「お墓参りありがとう。来てくれてうれしい」
そう、白のキャンパスに淡く優しい色を塗るようには笑ったのだ
(お前がさみしいとき、振り返ると)