「ねえ、私はスクアーロのこと愛してるよ」
「ああ」
「もっと、違う形で会ってたら私、もっと長くスクアーロと一緒にいれたかな」
「…ああ」
「どんな形でもいいから、恋人じゃなくてもいい。うそ、恋人がいい…けど愛人でも友達でも、ただ近くにいるだけでもいいからっ…あなたの傍にいたかったよ」
「っ…ああ…」
「ねえ、お願い…あたなの手で殺して。スクアーロ」
望むだけしか許されない
がスパイだった
本気の愛と呼んでも恥じないくらいの気持ちでいた。性欲処理のためだけに付き合う女とか遊ぶだけの女とか、そんなんじゃなくて。傍にいないと元気にやっているだろうか、何日会っていないか、声が聞きたいと思うような、そんな相手で
傍にコイツがいると胸が満たされる、そう思わせる奴で。胸が満たされるなんて感覚を殺し以外で初めて感じた相手がだったのに
スパイのくせして俺に何も聞いてくるはなかった。それどころか何か機密情報を得たのかさえ怪しい。そんな恰好だけのスパイなら、なんでわざわざ…誰かに探りを入れている様子を俺は知らない。嗚呼、どうしてこういう道しか俺達には残されてないんだ
マーモンから得た情報によればは敵対するマフィアに拾われたらしい。あいつの性格からして恩人であるマフィアを裏切ることも、俺達を欺くことも出来なかったんだろう。ホント、馬鹿な女だ
だけどそんな馬鹿な女がこんなに胸を痛めて、こんなに。こんなに辛そうな顔をして涙で頬を濡らしているのに気付かなかった俺はもっと馬鹿だ
何をしてやれたんだろうか、俺は此処まで追い込まれてしまったコイツに何をしてやれるのか。殺してくれと頼むを殺すことが俺の出来る最高の餞なのか
「…どうせ、どちらかのマフィアに殺される。ね、だからスクアーロの手で眠らして」
初めて左手に括り付けた剣が震える。光りが見当たらない暗闇の中、辺りに咲き乱れる花の芳しいとされる香りも今は欝陶しい。色の海みたいなこの場所、様々な植物が生きる庭園へと俺の手を初めて握って引っ張ってきたんだよな。ヴァリアー本部には庭園がないからとよく嘆いたよなあ。・・・なあ、どうしてそのまま心温まる思い出でいさせてくれないんだよ
俺は、どうたらいいんだ。を殺すのなんか嫌だ、絶対にいやだ
「ねえ、さっき傍にいさせてって言ったよね」
「……ああ」
「スクアーロがその手で私のこと刺せば私を殺したときのこと、誰かを殺す時に思い出すかもしれない。私はスクアーロが思い出すたびにずっと傍にいられる、ねえ。愛してる?私のこと」
無垢な少女のように微笑むに俺はただ小さく「愛してる」と告げるしか出来ない。なんと情けない声だ。自分だって分かるくらい恰好悪い。そんな俺の解答を聞き嬉しそうに、柔らかく微笑んでいるの背後にある薔薇の花はコイツを絡めとるように咲き乱れる
「ありがとう…」
その瞬間なぜか、俺は義手でない右手に剣を持ち替え、を殺そうと思った。こんなに愛して仕方ないと思った奴はいなかった。だから、いましかないと感じた。いまを逃したら自分は一生を殺せないと、思った
軟らかい肉だった、やわらかい笑顔だった。心臓へ真っ直ぐ伸びた剣はあっさりと肉を貫通した。一呼吸置いて目を見開き吐血するが俺の前に、いた。少し痛そうだった。辛そうだと思い、俺は機械的に首を撥ねた
若草の上を生々しく、よく嗅ぎ慣れた鉄臭さが鼻を刺激した。これは現実なんだと確信するには十分なモノでそれを理解して、もう駄目だと思った。そうしたら撥ねたの首から、顔から涙が一筋流れた。月がその時に自分を隠していた雲を押しのけようやく出てきたので辺りは明るくなった。月明かりのおかげで微笑む顔がよく見えた。泣いているのを見て、何故か冷静すぎる頭で流れているその涙を優しく拭った。冷たい肌だと思った。そうしたらぽたりと何かが滑り落ちた。嗚呼、これは俺の涙で、俺は泣いているのか。事実を知ったらもっと涙が溢れてきて困った。この首を俺に始末しろというのか、残酷なことを頼むもんだ
来世なんか信じられない僕に確かな熱を下さい