ほしの、うみだ。右へ左へと緩くゆれる、まるでゆりかごにいるような感覚に、陥ってしまう。小さな子どもの手形であろうものが白く、そして少しべったりという感じに透明の窓に張り付いている。外を見ようと小さな窓に視線を投げればやっぱり、星の海だ
「星は御気に召しませんか、憂いの貴婦人よ」
目深に被った黒のレザー帽子が天井にある照明によって鈍く光る。わたしの前に座る男はまぁ、口元が見えているからよくわかる。にこやかだ。対象的にわたしのこころは冷えている。遠足を目前にしてもはしゃぐことをしないで一瞥するような子どもの、心境のようなものだ
「いいえ、眼下にある色とりどりに輝く星は、好きよ」
わらう。しかし冷笑である
「わたしはただ、帰ってきたらなにを言うかわからない人がいやで気分を害しているの」
さらりと言ってしまう。自分のスカートを手できゅうと握る。赤と深緑、そこに白のストライプが入ったそれにしわができた
「家に帰ってから言おうと思ったんですが…」
男は苦笑した。困ったように、言う
すっと立ち上がる。顔は見ない。帽子でどうせ見えやしないのだから
ぱさりと音がしたのでそちらを向けば帽子が男の座っていたところにあり、長い足を折ってわたしと同じ視線にしたそいつはちくしょう、わたしの唇に優し過ぎるキスを一つ、したのだ。次になにも反応しなかったわたしの胸に抱き着いてきた。払おうとは思わない。むしろ頭を子どもをあやすように撫でた
「ただいま
くぐもった声だったが確かに、わたしに抱かれながら言うので返す
「おかえり骸」



星のうみにてフレンチキス