暗い夜。あたしはやはり乗り気になれない。ねえ、やっぱりやめようよ。こんなこと
言うとあなたはにっこりと笑う。その笑顔はやっぱり冷たいように見えてしまう、今が冬で肌寒いからなのだろうか。骸の手があたしの頬を優しくなぞる。こんなときばかり、あなたの手は優しさを孕む
「仕方ないじゃないですか。こんな場所にいたら僕とはずっと結ばれない」
「それはそうだけど・・・いままで住んできた土地だよ」
「でもあなたの故郷ではない筈だ」
それを言われると黙るしかない
夜道を手を繋いで渡る
元々、私と骸はこの村の住民ではない。故郷を夜盗に燃やされ、奪われて流れ歩いていた私がこの土地に住み始めたのは数年前の話だ。骸も私よりも少し後にこの村に流れ着いた。少しの間、流浪をしていた物同士気があったのかも知れない。そんなわけで私と骸が恋仲になったのであるがその上で不都合な事が起こった
村長の息子である男が何故か私に恋心を抱いたのだ。これには参った
「また戻ってあの男に追い回されたいんですか」
骸は私の手を握った。もう村からは大分離れている。星空と月明かりを頼りに暗い夜道を二人で淋しく歩いていく
村長の息子は私が丁寧に断ってもそれを受け入れず、そればかりか無理やりに結婚の話を進めていたのだ。婚儀がもう明日にあるから、と村長に言われたときには驚いた。秘密裏に行われていた作業に私は気付かなかったし村の人々も同様だった。ただし、骸は違った。私が骸の元へと走って事情を説明しても彼は驚かないばかりか村を捨てて逃げようと、いつの間にやら用意されていた僅かな荷物を指さした
「ねえ、これからどうしよう」
片手に下げた荷物がやけに重く感じられる。これから二人で川を下って他の里にでも住むのだろうか。今後のことは一切、話し合っていない。無謀な事で!
「それなら大丈夫です。三つ山を越した辺りに僕らの新しい新居があります」
「一体、どれくらい前から逃げようと思っていたの」
「内緒ですよ」
クフフフフ・・・と彼独自の笑い方で静かに笑う。これだけ自信があるのだからそんなに心配しなくてもどうにかなるかもしれない。三つ山を越すくらいなら時間はかかるがどうにかなる。山越えは故郷の事もあって得意になってしまったし
「、まるで二人で旅行でもしているようですね」
「こんなスリルの在りすぎる旅行はいやだなあ、どうせなら南に行きたいよ。あったかいよ」
「そうですね、考慮しておきましょうか」
この男ならやりかねない、なんて思うと不思議かな。暗い夜道に二人分の笑い声が小さく聞こえた