その人はあたしに近づいてきて事も在ろうかあたしに付き合って下さいと丁寧な口調で言ってきた。あたしはそいつのことを知っていて、だからこそ承諾した
その人はあたしの姉と付き合っていた。姉とあたしは一見しただけでは分からないくらい瓜二つの双子で近所では少し、有名だった。だが片割れは誰かに殺されてしまい、残ったあたしは特に変わりなく生きている


別にその人となにもしなかったわけじゃない。それなりに恋人がしそうなことはしてきたと思う。でもその人はあたしを本気で好きじゃないってすごく一緒にいて分かってしまった


だからこそあたしは自分から別れを告げた。もう無理だよ、あなたと一緒にいるのは。だってあなたが好きなのはあたしじゃないもの。そしてあなたはあなたが望むモノな筈のあたしを受け入れてくれないじゃない

あたしがそう言うとその人はそうですか、とだけ言って後ろを向いた。一体、この人がどういう思いでいままであたしと付き合ってたか一生かかっても分からない気がしてきた。でもそんなのどうだっていいんだ。どんどんと離れていくその人をあたしは呼び止めた
「骸」
名前を呼ばれて骸は立ち止まってこちらを振り向いた。まるでどこかの映画のワンシーンのようにさえ思えた
「あたしは姉じゃない。絶対に姉にはなれない。だからごめんなさい」
そう自分が言いたいことだけ言った。もう、何も悔いは残っていないんだ(なのに心臓が痛い)
「ちがうでしょ?あなたはの影になろうとしてもなれなかった、でしょ?」
骸は屈託なく笑った。耳鳴りがする。なんだか頭がゆらゆらと揺れている(そうだ、あたしは姉の所有物さえ受け継げない、影にもなれないただの残滓だ)(ちがう)
「僕が好きなのはやっぱりです。顔が同じで性格もよく似てるっていうから付き合ってみましたがどうにも合いませんでしたね、僕ら。あなたもの恋人である僕を自分の物にできなかった。僕もあなたをとすることができなかった。それだけのことですよ」
どうして?あたしは顔も性格も全部が姉の、の筈なのに骸はあたしを愛してくれないんだ。おかしいよ、あたしはなんだ。ねえ、だって顔も身体も全部同じだって知ってるでしょ?ねえ・・・





残滓