手に入れたいと思った瞬間に何度、両手からすり抜けただろうか。細く弱いように見えるくせに陰に隠れ、刃を磨きあげることに長けたはいまだって僕もきっと彼女も受け止められないで戸惑う真実を聖母の如き微笑で、語り続けるのだ。その口から告げるものがにとってどれほど苦しくて辛いことかは、その行動が僕の想像力なんかでは到底、理解なんてできない、出来るはずないじゃないか!
ぼくは
思い出すのは最期なんて言うには喉が焼かれるほど重い言葉だが、母の死に顔だった。痩せ細り、ふっくらと柔らかな肉で包まれた美しいくらいの、白いであろう骨が浮かび上がってしまっていて。風呂に入れないので身体を拭くときにはさすがにもう、手が震えてしまった嗚呼!僕は本当に愕然とした。自分では食事もできなくなってどこかのありふれた話みたいだ。病気の母が痩せて死んでいくのなんて。文字に言葉にしてみればなんとあっけないか人の死よ。あのとき、僕は現実を受け止めるにはまだまだ弱すぎた。だから、死ぬ間際の母の傍に行き現実を受け止めることは即ち。父に捨てられてしまって、庇護してくれる愛すべき、唯一の人の果てない旅立ちを認めてしまうことになる、真実ではないとなんども自分に嘘をついた。そうしたら母は、ああ!
いつだって
恐れを知らない者は早くこの世という陸地から舟を漕ぎ出して泣きながら笑うことになるのだ。追いかけてくる子どもを抱きしめたくてもそんなことが許されない母。信じてが以前と同じような恐怖と生に対する渇望の入り混じった顔をすることがないくらいに回復するようにどう信じてやればいいなんて、僕に聞くなよ無粋だ。徐々に日が昇ってくるので暗闇のベルベットはするするっと上に上がっていって鈍色の境界線を生み出してみたりする。どうやって振舞えばいい、同じ過ちを僕は繰り返すのかと考えれば考えるほどの傍に言ってなにか物事を話すことさえ出来なくなるのはまだまだ弱い僕の責なのだ
起こるべきことに背を向けて
実際に死ぬのは僕ではない。ならばどうして「元気で」だとか「諦めるな」だなんて言えるのだろうか。彼女の気持ちも理解できていないのにそんなチープな言葉は馬鹿らしい。どうせなら格好をつけた言葉をだなんて浅はかにも考え、浮かんでくるのはやはり戯言。いまの彼女の足が果たして世界で一番美しい形と色をしているのかを確かめることを僕は認めざるを得ないくらい弱いので出来ない
世界の崩壊を眺めるだけでなにかをしようとはしなかった!