かあ、どこか遠くで暢気に一羽が鳴いた。あたしはとにかく不安でかあかあと鳴いているのを聞きながらほろほろと涙を流していた。そうしたら鴉がこちらに飛んできた。かあ、あたしは真似て言ってみた


めんどうだからそのまま昨日、の寝ているベッドで寝てしまった。裾をあんな辛そうな、泣き顔をして掴まれていたら俺だって弱く握る手を剥がしにくいのだ。それにしても小さく、不安にさせるような白さ
目を開ければそこには人外の生き物が呼吸をしているのかも怪しく寝ていた。あんまりにも呼吸音がしないものだから未だに握っている手首の脈を測ってみたら生を主張するかのようにとくん、脈打った

「ザンザス、いまはこんなに薄着をするのか」
現代の空気に馴染ませておいた方がいいと考え、服を買うために眠そうなに何枚も重ねてある着物を着るように言いつけ、自分も着替えた。食事は面倒なのでルームサービスで済ませ、手配してあった車に乗り込んで適当に店を選んで入った
「それに値札とかいうのがないぞ、コレ」
車の中で現代の一般常識を教えてくれとせがまれたので時間の許す範囲での知らなそうなことを簡単に説明していた。そうしたら車内の窓から見たのであろう、名も知らない店の商品にでもついていたのか。下にある、数字が書いてある札はなんだと聞いてきたので説明したのだ。ちゃんとに頭に入っているらしい(というよりもどれだけ視力がいいのだ、コイツ)
「ない店もあんだよ。次、コレ着てみろ」
大体、お前の服は重ねすぎなんだよ。空間はでかいくせにあまり品数がないのは高級店の特徴なのだから文句は言わないが選ぶ範囲が少ない。その中から手にとってに合いそうな服を選んでいて黒しか選別していないことに店員の一言で気付かせる。少し考えてから他の色も数着、手にして店を出る。試着した際にいま着用している着物はあまりにも目立つのでシャツに黒のスーツとブーツを着せておいた。パッと見、ヴァリアーの制服に似せておく。これから俺の元で働くのだから本部に戻ったらコイツの制服を作らせなければいけない、そうしたら少しでも今から馴染ませておいた方がいいと頭の片隅で考える。着物は捨ててしまおうかとも考えたがが脱いだ後のそれを手に持っているのを視界に入れて服が入れてある紙袋に押し込んでおいた
「ザンザス、感謝するぞ」
店内を出る際に口元を綻ばせて笑いながら礼を言う。悪い気はしなかった。むしろ最初は手懐けるのが困難かと思っていたのが思いの他、あっさりと手駒にできてしまったのだから気分は良いに決まっている。隣を歩きながら昨日のように指を指すなとたしなめたのが効いている。視線を四方に飛ばしているがモノに人差し指を向けることをしない
「ザンザス、これからどこに行くんだ」
身長差のせいで声のする方を見れば視線は下げる。対照的に相手はじいと上目遣いをすることになる。自分の裾を離さずに涙を流していた顔はいまではそんなことなど、なかったかのようだ。本人も気付いていないだろう、起きたときに平然と手を解いたのだから
「イタリアに戻る。もともと日本には任務で来ただけだしな」
「イタリア・・・外国か。海を渡ってしまうのか」
「そういうことになるな」
返事を返してからふと気掛かりなことが生じた
「おい、お前イタリアが海外だってこと分かるのか」
俺の問いにふふんと得意げに目を細めて笑う。自分が俺に問わずに物を知っていたのが嬉しい、と一目瞭然。顔に書いてあるとはまさにこのことだ
「海外の鴉と交流があったからな・・・いまでも元気にしているだろうか」
一転。ネイビーブルーが淋しそうに揺れたのを俺は見逃さなかった。ただの鴉が、こいつの眠っていた果てしない時間を耐えてまだ生きている筈もない。死んでしまっているだろう
「さあな」
曖昧な返答。答えは考えるまでもないのに肯定するでも否定するわけでもない。そういえば日本には未練がないのだろうか。思ってコイツが眠っている間に社会は随分と変貌を遂げ、自宅も自分が壊してしまったのだったと思いあたる
「ザンザスの家か。昨夜の寝床もやけに柔らかかったし・・・時代は変わったなあ」
「いまでは布団を床にひいて寝たりはしないのだろうか」問うてきたの顔を見て明らかに、俺のベッドを標的に定めているのが分かってコイツのせいで落下した気分は上昇して「知らねえよ」と返答した




鴉が止まり木を飛び立つ刹那の