ざあざあとよくもまあ降る雨だことで。わたしはぼんやりと地べたに這い蹲って空から降る恵みの雨に叩かれて体温も吸われて、なにが恵みの雨だ、と悪態を心の中でついて舌打ちを一つ、した
殺し屋としていつも通り、依頼を受けて標的の命をふうと吹き消すだけだったのに如何せん、まさか標的の女が自分と同じ同業者で男を殺された腹いせにわたしを撃ってくるとは計算外だった。一体、どこで自分の顔を見られてしまったのか
勿論、女を撃ち殺すことはした。彼女の眉間に一つの風穴が生まれてどう、と倒れて血溜まりを作ったのを確認して死んだなって思った。そしたらわたしが今度は死にそうなんだから笑えてしまう
なんとかここまで来たけれどこんな雨の激しい夜に、人通りも少ないこの道で誰がわたしを助けてくれるというのだろうか
歩くことも困難になり、予想通りに倒れて現在に至る
「・・・生きているのか」
自暴自棄になって明日の朝にはわたしの死体がこの街のみなさんに見られるのか、と他人事のように思いながら寝ようとしたその時だった。空から声が降ってきた。首を動かすのもとにかく腹と足と背中に撃たれた傷が目を覚まして泣き出すのでわたしも泣きたい気分だったが好奇心に負けて空を見た
そこにあったのは赤だ。双眼の綺麗な赤がわたしを見下していた。年はいくつだろう、まだスコラーロくらいだ。小さい子ども特有の柔らかそうな肌にこの年にしては珍しく少し痩せている。顔つきが険しい。傘を差しているのだろう、雨がわたしを殴らなくなった
「・・・なんとか」
声は随分と低いモノしか出なかった。血が流れすぎているのか、体温を奪われ過ぎたせいか。頭が朦朧としているのに今更気が付き始めているわたしは大分、馬鹿だろう
「死ぬのか」
少年はわたしと同じくらいの目線になるようにしゃがんだ。こんな寒いのに半ズボンだ、風邪をひいてしまうよ
「しにたくは・・・ない・・・・・な」
意識を何度も手放し、その度に拾い集めて少年とのほんの少しの会話をしていたがどうやら限界が近いらしい。喋るのが億劫になるくらい頭は回っていない。眠くて仕方ないのだ
「それなら俺のモノになればいい。なるだろう?」
少年はぼうとするわたしの髪をひっ掴んでぐいと上に持ち上げる。痛みに顔を歪めて抗議の声を上げるが少年はうんともすんとも言わずにもう一度、同じ質問をした
「俺のモノになれ」
少年は質問ではなく強制をしたきた。その時の顔をわたしは忘れないだろう。こんな小さな子どもの所有物になるのなんて普段のわたしなら絶対に拒否だ。それは頭が働かなくなっている現在でも適合される。それでも、殺し屋のわたしが少年の所有物になってもいいと思えたのは彼の瞳の強さにある(そしてなんでか淋しそうな、よく表現できない顔をした)
「ええ」
短い返事しか出来なかったが少年はその返答に満足をしてくれたようだ。完全に手の中から意識が飛び立つ刹那、見た少年の顔はわたしが思う以上に可愛らしいものだった
雨の日に出会った子どもはそうして大人になるのだろう
スコラーロ・・・小学生