二人で手を握り合ってなにか変わったことはありましたか。わたしがあなたの傍で笑っていてあなたは癒されたことが一度でもありましたか。あったのならばその時のこと、少しでいいから教えてはくれませんか。哀れなわたしはあなたに対してどう接していたのかをわすれてしまったのです。なんと哀れな
嫌われるのが昔から嫌いでした。すきな人なんて、いないんだろうけど。だけど確かに、わたしは遥かにそれを人よりも恐れていました。嫌われるくらいなら相手に合わせた性格になればいい。そうすれば、わたしはその人に嫌われない
でもそうしていたらわたしという人格がどんなものだったか忘れてしまったのです。滑稽かな、笑っちゃいますね
スクアーロといるいま、この時間も。どうすれば彼のことを笑わすことができたか。どうすれば、わたしは彼にもっと好きになってもらえたのだったか。すっかり、忘れてしまった。社会にいる人間の数は多くて、その人達に対応しているうちに待って思い出すから(うそ覚えてない)
「ごめんなさい、スクアーロ」
優しい腕に包まれたときに言う言葉は「ありがとう」な筈なのに
わたしの口から出てきたのは正反対の言葉で。どうしよう、スクアーロに嫌われてしまう。嫌われてしまったらスクアーロとお話ができないわ。きっと彼のことだからわたしを一度、捨ててしまったら拾いに来ないし目を合わせてはくれない。また、捨てられてしまうのか(いつだってわたしは一人なのだ)
「いい、別に」
短い言葉だけが返ってくる。いきなり謝られて彼は気分を害したかもしれない。上を向いてスクアーロを見ることができない。見たらきっと、この腕の中にいることができなくなってしまうから。空は赤みが射してきてわたしは狼狽しながら地面に映し出された色を泣きそうになりながら見やった(なんと小さくて厭な女の影)
「おまえ、すこしゃ笑え」
腕が強く、わたしを抱きしめる。あれ、雨が降ってきた。なんだかとってもあったかい
「なあ・・・おまえどうしたらおまえでいてくれる・・・・・?」
わたしは人に嫌われるのが怖くて自分じゃない自分を演出していた。だけど、いま、スクアーロが泣いている。ごめんなさい、どうすればあなたは笑ってくれるのか思い出せないの思い出せないのよ・・・
わたしの幻はただ一人彷徨って人を刺す
(わたしの影がそうやって人を苦しめているのに気付かせてくれたあなたがいなければまだ歩いてた幻はあ わ れ)