人はいずれ死ぬ生き物である。生命がそのように出来ているのである。巨万を築こうが貧困に喘ごうが死して辿り着く先は一様にして同様であり問題となるのは満足感に外ならない

故に私は自分が死んだことを受け止めたのだ

私の命が無駄に散ったのではなく、誰かの命を繋ぎ止められたことが誇らしい。私という存在があって、名も知れぬ少年は生き残ることに成功したのだ

そうとでも思わなければやりきれない





「…!いっ、いつきちゃんっ!!こ、このおなご生きとるベ!!」

知らないオッサンが私を感動したように見ていても!そんなの知りません!!もう超絶美形の案内人さんの爆弾発言にただでさえわけわかんなくなってんのに…
身体が引っ張られたと思えばコレ。反射的に目を開ければ見知らぬオッサン。頭の毛が焼け野原。不意にあの、超絶美形のお兄さんが恋しくなった。視覚的に、だが
「おめぇさ、よっく生きてただなぁ!おらが生きてきた中でいっちばん!激しい吹雪だったに!!」
好意的な笑顔に私はただ、狼狽するしかなかった。こんなにも真っすぐな目をされたことなんかないし何より…私が生きていることを我が子のことのように喜んでくれてる…小さな女の子
(エエェェェーーー…)
うん、細くて白い足が眩しいぜ…!

「あ…ここ、は…?」

足を凝視しながら尋ねる。なんというひざ小僧…!
「ここは日ノ本でも最北端!オラ達の村だベ!!」
ニコッ!と音でもたてそうな程に笑顔を向けられ「あー、最北端…日ノ本…」と反復してみる。随分代わった言い方だけど日ノ本って日本で、最北端ってことは青森か?
そんなことを考えてる間に美少女は私の頭をよしよし、とし始める。年齢的にこれはどうだよと思いつつまぁ、気持ちいいしいっか…

「なぁ、なんで姉ちゃんはあんなトコで倒れてただ?」

女の子はコテン、と首を傾げる。うん、なんか頬がにやけて仕方ない!
「…えっと」
しかし言葉に詰まる。私自身、そんなの知らない。案内人と名乗ったあの男の言葉を信じるなら私は死んで、浄化?
とにかく地獄に行かないためにするための準備をするまでどっか行ってなさい、てなわけで此処に…

て、おいいいぃぃィィィィィ!!!!

だからって場所とか選ばない?フツー選ぶよね?!意味わからないんですけど!
凍死しなかったから良かったものの…もういい加減にしてほしい!しかも人の身体を弄った、とも言っていた。ちょっと待て、何をどう、いじくるのだ。徐々に不安が出てきて。それに…辺りをぐるりと見回す。私がいた日本よりずっと此処は…
「姉ちゃん?」
女の子が不安そうにコチラを見ている。私は慌てて笑った。たぶん、ぎこちない
「えーっと…私自身、なにがなんだか…」
ハハッ、渇いた笑いが静かになった室内に響いた


静かで何となく気まずく感じられる室内。女の子は目を大きくして(パッチリ目がホント、可愛いな…)
私を少しばかり見つめていたが唐突に口を開いた
「姉ちゃん!何で笑うだか!!辛い時は無理して笑わなくてもいいだぞ?」
心配そうに私を見てくる彼女、そんな反応にどうしていいかさらに頭がいっぱいいっぱいになる
そんなことなど気にせず、さらに目の前の彼女は「オラはいつきっていうだ!姉ちゃんはなんて呼べばいいべ?」とかわいらしい笑顔で聞いてくる。そして私はその笑顔に安心した
「私の名前は。よろしくいつきちゃん」
言えばいつきちゃんはかわいらしい笑顔で「よろしくだ!」と返す
こんな、何処から来たかもわからない奴を助け、無理して笑わなくていいと言い、さらにはこんなにも優しい笑顔を向けてくれる。私はそれにどれだけ安堵しただろう
いつきちゃんの眩しい笑顔に雪のような頭を撫でようとした時だった

「火だっ!奴ら、火を、火をっ!!!!」

拡散する絶叫にも似た言葉。私は伸ばしかけた手をどうすることも出来ないまま戸がある方に視線を投げるしか出来なかった
しかし、いつきちゃんは違った。大きな瞳がさらに大きく見開かれる。外からは泣き叫び、逃げ惑う人の声

「…っ!ねえちゃん!来るだっ!!」
土で少しばかり汚れた小さな手袋を嵌めた、やっぱり小さな、手。それは迷う事なく私を掴んだ。周りのオッサン達が立ち上がる、私の息が、胸が、たかなる

薄く、頼りない木の板を横に引けばそこは地獄

背中に火を背負って逃げる人、突き刺される人
飛び散る鮮血。燃え上がる民家から上がる黒鉛に喉がチリリ、とした

「こっち、だっ…!」

いつきちゃんが呆然とする私を引っ張る。その声は涙混じりで、安い映画のワンシーンみたいで。私は耽った。あんまりな惨状に感情が、わかない。なにこれ現実?