車のエンジン音、知らない人達の会話
チリリン
鈴の音、振り返れば自転車に跨がった中年のオッサンが私を睨み付けている
うっざい、いま私の隣を過ぎていく通行人Aがわかんないんですかオッサン
横二人通れるかどうかの歩道です
避けれませんよ、どう見ても
睨み返して知らぬ顔して前を向いた。数歩歩けば隣を過ぎるオッサンと舌打ち。私も負けずに舌打ちして対抗する
気分が沈んでいくのを一身に感じた。何が悲しくてこんな、憂鬱としか言えない
今日も疲れた。なんか精神的な意味で
大学ってこんなに疲れるのか?多分、疲れないものだと思う
帰ったら休んで風呂入って寝よう。御飯はテキトーでいいや
そんで明日の夕方っていうか明日丸々寝よう、コレ決定
横断歩道の前で歩みを止める。赤信号を堂々と渡って行くおにいさん
おーい渡ったらいけないんだよー止まろうよおにいさーん
そんなことを考えながら逸る気持ちを押さえつけ、信号が変わるのを待つ
ふと子どもが足元を通り過ぎた
オイオイ、まだ信号赤なんですけど!おにいさーんの真似なんかしてんじゃないよー。親止めろよなーって、かなり後方でミセスと談笑してるあれじゃね?子どもに気付いてないし
つうか渡りきるならさっさと渡りきらないと引かれるぞー、歩くのおそっ!歩幅狭っ!なんて思いながら何をするでもなく様子を見ていた
どんどん近付いてくる車の音
さすがに横断歩道のど真ん中にガキがいたら止まるだろ、そう思って高見の見物
しかし予想に反して止まる気配がない。おいおいマジか。そろそろヤバイと思うっちゃ思うが見知らぬガキのために自分がなんかする気にはならない。まったく
信号も守らんガキが引かれようがどうだっていい。うん、超どうだっていい
正直言って人の生き死になんてニュースで見てたって「へー、私じゃなくてよかった」って思うのが現代人でしょう。そんな熱く生きるなんてまず無理だ
それ絶対に私じゃない
「走れっ!」
なのに大声出してガキに呼び掛けてる。対するガキは車見て固まってる。馬鹿か、馬鹿なのか!
引かれたいのか、引かれちゃいたいのか!
知らないけど勝手に身体が動いてた。ぶっちゃけ何にも考えてなかった。ただ、気付かないうちに走り出してた
ほうけてるガキの手を思いきり掴んで走ろうとしたが間に合わないと確信した
ならば
私は車を背にして名前も知らないそいつを咄嗟に抱きしめた
この時もやっぱり何にも考えてなかった
周りからよく「頭が弱いな」って言われる
あー確かに頭は弱かったかもしれない。頭強かったら絶対に飛び出さなかった
ていうかすげー!私いま空中を放物線描いて飛んでるよーすげー…
救急車のサイレン
人の声
どんどん遠ざかっていく…